ラグビーW杯で日本代表が南アフリカ代表に勝利してから、これまでのラグビー界とは全く異なる世界が生まれました。ラグビーは1980年代あたりにはかなりの人気を集めていたスポーツであったとは思いますが、少なくとも2000年代に入ってからは、残念ながら世間一般からすると、人気のあるスポーツとは見られていなかったと思います。
私自身、ラグビーを見始めるようになってから、これまでラグビーが世を賑わすということはほとんどなく、一部の人たちで盛り上がっていたスポーツとなっていたように感じています。
※とはいうものの、全く人気のないスポーツと言うとそれはちょっと違うと思っていて、野球やサッカーに比べると人気はないものの、それなりの観客がいて、それなりの人気はあったと言っていいかと思います。
そんな中で、2015ラグビーワールドカップ・イングランド大会で南アフリカを日本代表が倒したことで、一気にラグビーが日の目を見ることになりました。ワールドカップでは、スコットランド戦以降、多くの人が日本代表の試合を見ることになり、ニュースでも取り上げられるようになり、帰国の途に就くとテレビ出演する日本代表の姿を連日見るようになりました。
特に五郎丸選手は今や日本中で知らない人はいないのではないかというくらいの勢いになっており、メディア出演などで連日名前が出てくる選手になったと思います。
トップリーグへの影響は?
さて、では今のラグビーブームがトップリーグに影響を与えたのでしょうか。
第3節までの試合を見ると、少なくとも昨年度よりは観客動員数は上がっていることがわかります。
<第3節までの観客動員比較>
昨年度 | 今年度 | 差 | 増減比 | |
---|---|---|---|---|
第1節 | 41,562人 | 67,598人 | +26,036人 | 63%増 |
第2節 | 45,810人 | 47,811人 | +2,001人 | 4%増 |
第3節 | 36,889人 | 57,192人 | +20,303人 | 55%増 |
合計 | 124,261人 | 172,601人 | +48,340人 | 39%増 |
※各節8試合の合計観客動員数での比較(合計は全24試合での比較)
もちろん、開幕節でチケット売り切れ発表されていたにも関わらず、当日はかなりの空席が出た(事実として昨年度の開幕戦11,162人に対し、今年度は10,792人と少なかった)のは大きな問題ですし、本来ならもっと観客数も増えていたかとは思います。それでも昨年に比べると、39%増と増えていることは間違いありません。
もう少し付け加えると、今年は第2節、第3節で秩父宮開催がなく、地方開催が多かったにも関わらず、この実績なのはそれほど悪い数字ではないかと思います。
ラグビー観戦に誘いやすくなった?
トップリーグの観客増加の要因ですが、一次的にはやはりワールドカップでの日本代表の活躍があるかと思います。二次的な要因としてはいくつか挙げられるでしょう。
1つはかつてラグビーを見ていた人ややっていた人たちが回帰していることと思います。彼らはラグビー自体には興味はあったものの、最近は中々トップリーグ観戦にはきていない層です。それがラグビーワールドカップの影響で、かつてのラグビーファンが「もう一度見てみよう」と思ったり、ラグビープレイヤーだった人が、「今のラグビーを見に行こう」と思ってきているケースが多く感じられます。
もう1つの二次的な要因としては、これまでラグビーを見たことがない人が見にきていることだと思います。ただ、これもいきなり全然知らない人が来るというケースはそれほど多くはないような気がします。どちらかといえば、ラグビーファンに連れられてきた人や、元ラグビープレーヤーと一緒にくるというケースの方が多いような気がしています。
逆に言えば、ラグビーファンやラグビー選手からは、「ラグビー見に行こうよ!」と誘いやすい環境にはなってきたかなと感じています。個人的にも昔であれば、ラグビー見に行こうと言ってもあまり興味を示さなかった人が、逆に「ラグビー見に連れて行ってくださいよ」と声をかけられるケースも出てきました。
今シーズンのラグビー場を見渡すと、今まで以上にあちらこちらでルール解説している人をよく見かけるので、これまでラグビーを見たことなかった人がラグビーファン、ラグビープレイヤーの人と一緒に見にきているケースが多々見られるような気がしています。
ラグビーブームとラグビー人気の違い
さて、そんなトップリーグですが、今の時点で観客が増えているのは、ブームのおかげです。今の観客数は「もっと入るだろう」とか「まぁこんなもんか」とか人によって感覚は違うかと思いますが、あくまで今の観客数はブームからもたらされているものだと考えています。そして今はラグビー人気ではない、と個人的には考えています。
ブームと人気の違いは何でしょうか?
色々な考え方が出来ますが、私はブームは作られたものだと思っています。それに対して、人気は作っていくものと思っています。今のラグビー界は、もちろん日本代表の活躍があってこそではありますが、テレビや新聞・メディアなどによって作られたものであって、これはブームと呼ぶべきものだと思います。
ブームはあくまで作られたものなので、長続きしません。常にメディアなどに取り上げられ続けられればいいですが、そうもいきません。いったん流れがとまってしまえば、メディアには取り上げられなくなってしまって、それまでの人が去ってしまう、という形になります。ブームは爆発的に人が増える効果がある反面、一気に元に戻ってしまう危険性もあります。
逆に人気というのは誰かから作られたものではなく、自分たちが主体となって作り上げていくものです。そのため、人気というのは簡単にできるものではないです。コツコツと積み上げていくものです。爆発的に増えていくことはないですが、逆に一気に去ってしまうという危険性は少なくなります。
これらをふまえた場合、今の日本ラグビー界はブームの状態だと思っています。それまで見向きもしなかった媒体も含めて、一気に火がついた状態です。悪く言えば、作られたものなので、いつブームが冷めてしまうかはわかりません。
ブームから人気へ
ただ、ブームというのが絶対悪というわけでもないです。少なからずブームの影響を受けて、新しくファンになってくれる方もいるでしょう。また、そもそもブームすらなく低調なまま推移していくものも多い中で、ブームで少しでもラグビーのことに触れる機会が増えたことは良いことだと思います。
とはいえ、いつまでもブームに頼っていてはいけないのも確かです。これからはラグビーブームからラグビー人気へと変えていかないといけません。
そのためには自分たちで作っていくことが大事になってきます。ポイントは自分以外の誰かではなく自分たちという点かと思います。
自分たちには当然ラグビー協会も入りますし、各トップリーグチームも入ります。もちろん選手達も入りますし、その中にファンも入るでしょう。それぞれがそれぞれの役割はあると思いますし、全員が同じことをすべきではないですが、かといって他人任せにしていてはこのままラグビーはブームのまま終わっていってしまうと思います。
人気を作り上げるのは時間も忍耐もかかりますが、徐々に作り上げていくしかないと思っています。そういって作り上げていく中で、ラグビーが文化として残っていくのだと思いますし、そのためにはファンもラグビーを文化にしていく当事者の1人であるべきでしょう。
最後に
最後に下にJリーグの観客動員数があります。
これを見ると、Jリーグの推移がよく分かります。Jリーグも開幕当初は明らかにブームでした。メディアでもよく取り上げられていて、爆発的な人気だったと記憶しています。その反動か、4年目から観客動員数が一気に減ってしまっています。ブームが冷めたのです。この頃は、Jリーグ人気低迷などと言われてしまった時代だったかと思います。ただ、ここから先はしっかりと動員数を延ばしているのが見て取れます。
Jリーグの場合でいえば、もちろんサッカー協会もそうですし、各チームもそうですし、サポーターもそうですし、各人が自分たちで人気を作っていたのではないでしょうか。誰かに任せるのではなくて、皆が主体的に動いたことで徐々に観客数を増やしていくことにつながったのだと思います。
ラグビー界も同じく、やはり協会が道筋を立てて主導していってもらいたいですが、それだけで人気は作れるものではないです。各チーム・選手。そしてファンもそれぞれに主体的な行動をとらなければいけないわけです。ファンであれば、試合を見にいく、その面白さを何らかの手段で伝える、グッズなどを買う、そういった行動が人気を作り出していくのだと思います。
それらは一気に花開くものではないと思いますが、10年後・20年後に花開くものだと思います。時間はかかりますが、人気を作り上げることができるよう、主体的に行動していきたいと思う次第です。
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