新国立競技場の建設費が高いのはラグビーW杯のせいなのか?

コラム
スポンサーリンク

ここ最近のニュースとして、新国立競技場の問題が取り上げられています。

新国立競技場に関しては、連日ニュースなどでも取り上げられていますが、建設費が2500億円になるということで他競技場と比較しても莫大な金額となっています。

色々なニュースがありますが、参考にこちら→建設費は?費用負担は?…どうなる新国立競技場

スポンサーリンク

2019年W杯と2020年東京五輪

そもそもこの新国立競技場は2020年の東京オリンピックと、日本開催の2019年のラグビーW杯の会場として使われることになっています。

ラグビーW杯が開催されるのは2019年9月~10月、東京オリンピックが開催されるのは2020年7月~8月となっています。新国立競技場の完成時期は当初は2019年3月だったものの、2019年5月となっています。

この2500億円という金額はあまりに高額なために、各所で批判もされている新国立競技場ですが、この金額を下げるためには2つの策があると考えられます。

1つが、「設計を見直して、コストのかからない構造にすること」ともう1つが「見直しのための工期延長」と言われています。

が、ラグビーW杯までに新国立競技場を完成させるには、この工期延長が出来ず、ラグビーW杯を別の場所でやれば、新国立競技場はもっと安くできるという意見も見られます。

参考

アーチなし新国立案、槇文彦氏ら再提言 文科相あて

新国立競技場2520億円!急ぐ必要あるのか?ラグビーW杯代替競技場でやれ

 

これらを見ると、ラグビーW杯に間に合う必要はないのでは?という意見も出てきます。もっといえば、ラグビーW杯があるせいで、国立競技場が高くなったんだという意見もあります。

それらをふまえつつもまずはこれまでの経緯を見てみましょう。

東京オリンピック・ラグビーW杯開催経緯


はラグビーW杯に関する事項

2009年5月13日 ダブリンでIRB理事へ向け、「ラグビーワールドカップ(RWC)2015/2019」のプレゼンテーションを実施。

2009年7月28日 ラグビーワールドカップ2019、日本開催決定

2009年10月2日 2016年オリンピックがリオデジャネイロに決定(東京は落選)

2010年11月7日 ラグビーワールドカップ議員連盟が発足

2011年2月15日 ラグビーワールドカップ2019日本大会成功議員連盟の総会で、国立競技場を8万人規模のナショナルスタジアムにすることなどを含め、W杯に向けて明治神宮外苑一帯の施設再整備を求めることを決議

2011年4月12日 東京都知事選挙で再選された、石原慎太郎都知事が2020年夏季オリンピックへ再度立候補の意欲を表明

2011年9月2日 国際オリンピック委員会は東京・ローマ・マドリード・イスタンブール・ドーハ・バクーの6都市から立候補があったと発表

2011年9月15日  東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が設立

2012年2月 国立競技場の全面建て替え工事の基本構想が発表(8万人収容、開閉式ドーム屋根の設置)

2012年2月15日 東京・イスタンブール・バクー・ドーハ・マドリードの5都市が大会概要計画を記した申請ファイルをIOCに提出(ローマは財政難を理由に辞退)

2012年5月23日 IOC理事会にて東京・イスタンブール・マドリードの3都市が正式立候補都市に選出

2012年12月16日 2012年東京都知事選挙の投開票が行われ、猪瀬副知事が当選

2013年9月7日 ブエノスアイレスで開かれた第125次IOC総会で2020年オリンピック東京開催が決定

2015年11月5日 ラグビーワールドカップへの開催希望申請書が提出(14箇所)

2014年12月15日 ラグビーワールドカップ2019開催都市立候補地の追加(神奈川県・横浜市)


 

ご覧になったように、東京オリンピックの開催決定が2013年9月なのに対して、ラグビーW杯の開催は2009年7月に決定しています。これは東京が落選した2016年リオ五輪決定よりも前に決まっていたということになります。

ただ、ラグビーW杯開催時には新国立競技場を作るという話があったわけでもなく、開催地に新国立競技場は入っていませんでした。ただし、ワールドカップ2015/2019日本招致プレゼンテーション報告では新国立は当時建設の話が正式に出ていたわけではないので、旧国立競技場が候補に挙がっていました。

W杯プレゼン時の開催地候補

北海道・札幌ドーム
宮城・ユアテックスタジアム仙台
東京・国立霞ヶ丘競技場
東京・秩父宮ラグビー場
神奈川・日産スタジアム
愛知・豊田スタジアム
大阪・長居スタジアム
兵庫・ホームズスタジアム神戸
福岡・レベルファイブスタジアム

香港スタジアム

シンガポール・スポーツ・ハブ

※赤字は実際に会場となったスタジアム

実際のW杯会場についてはこちら→ラグビーW杯会場決定!W杯が行われる12会場は?

いつからW杯に新国立競技場が利用されることになったのか?

ということで、最初は旧国立競技場利用のはずだったのにいつから新国立競技場に変わったのでしょうか?

そもそもラグビーW杯の開催決定時は、東京は2016年のオリンピックを目指していました。このときは五輪は晴海に新しい競技場を建設し、国立競技場に新しい球技専用スタジアムを作るという形になっていました。が、2016年に東京は落選し、この話はなかったことに。

注目なのは2010年にはラグビーワールドカップ議員連盟が設立され、2011年2月にはそのラグビーワールドカップ議連が国立競技場周辺を再整備するように決議していることです。当時の東京都知事、石原慎太郎知事が2020年のオリンピックに立候補すると表明したのは4月です。

つまり、時系列で並べると、新国立競技場はラグビーワールドカップが先に決まっており、そのための場所として整備するようにし、その後で東京五輪への立候補が決まったわけです。

時系列だけでいえば、新国立競技場は東京五輪のために建設が決まったのではなく、ラグビーワールドカップのための施設として決まったという流れになります。

この流れでいえば新国立はラグビーW杯に間に合わなくてもよいというわけではなく、むしろラグビーワールドカップのために作られることが決まったという経緯があります。

 

東京都・新国立でW杯はやらなくてもよい?

とは言いつつも、オリンピックは東京でやるものであり、ラグビーW杯は日本での開催なので東京で開催する必要はないし、新国立でなくても別の場所でやればよい、という人もいると思います。

確かに東京五輪は東京が立候補しているものですし、ラグビーワールドカップは日本として開催するものなので、東京だけが会場なわけではありません。東京でわざわざやらなくてもいいのではないかと思う気持ちもわかります。

とはいえ、これもラグビーW杯の開催地立候補を見てみると、そうとも言えません。

ラグビーW杯の立候補地決定の過程を見てみましょう。

まずラグビーW杯の会場候補地は各自治体からの立候補で全14の候補地が立候補しました(のちに神奈川県・横浜市も立候補したので15の候補地になります。)

ラグビーW杯2019日本大会開催立候補地発表!来年3月に会場決定

その中の候補地から3月2日に下記の12の都市スタジアムに決定しています。

札幌市
札幌ドーム
岩手県・釜石市
釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)
埼玉県・熊谷市
熊谷ラグビー場
東京都
新国立競技場
神奈川県・横浜市
横浜国際総合競技場
静岡県
小笠山総合運動公園エコパスタジアム
愛知県・豊田市
豊田スタジアム
大阪府・東大阪市
花園ラグビー場
神戸市
御崎公園球技場
福岡市
東平尾公園博多の森球技場
熊本県・熊本市
熊本県民総合運動公園陸上競技場
大分県
大分スポーツ公園総合競技場

ここで重要なのは開催地は自治体からの立候補制だということです。なので開催したくない候補地は立候補しなくてよいということです。もちろん、政治的な思惑が裏に色々とあるとは思うのですが、少なくとも東京が立候補したのであれば、開催する責任は出てくるかと思います。

参考→ ラグビーワールドカップ2019開催都市決定に関する議連会長コメント

なぜラグビーW杯は悪者になるのか?

とまぁ色々と書いてきましたが、個人的に無理に新国立でやってほしいわけでもないですし、横浜国際競技場が開催地としてあるので、決勝戦や準決勝、開幕戦もそこでやれば十分できるわけです。(開幕戦・準決勝・3位決定戦・決勝には6万人以上のスタジアムが必要です。)

それよりも気になるのはなぜラグビーW杯がこれほど悪者になるのかという点です。これにはおそらく2つの理由があると思います。

森元首相の存在

個人名を挙げるのは気が引けるところではありますが、この方の存在というのは間違いなくあるでしょう。森喜朗元首相は、ラグビー協会の会長職を2005年から今年まで務めていた人物です。実際の能力はおいといても、国民からは不人気で古い利益誘導型の政治家というイメージがついているため、基本的に批判されやすい人物です。

そしてその森元首相がラグビー協会の会長で、ラグビーW杯をゴリ押しして、新国立競技場をW杯を期限にしており、ラグビーW杯への利益誘導をしているという流れにつながっているかと思います。

ラグビーW杯の知名度

そしてもう一つはラグビーW杯の知名度だと思います。日本国内でいえば、ラグビーW杯はオリンピックと比べればマイナーな、特に興味ないスポーツの1大会に過ぎないのでそこまで無理しなくてもいいのではないか、という思いを持つ人が多いのではないでしょうか。

ラグビーW杯がオリンピック、サッカーW杯に次ぐ、世界でも3番目に大きなスポーツイベントであり、2011年ニュージーランドで開催されたW杯では総観客数約141万人で、テレビ観戦者数は世界207の地域で約39億人が見たイベントであるということを知らない人も多いと思います。

知名度がもう少しあれば、ラグビーW杯の価値を理解している人が多ければ、ここまでラグビーW杯までに間に合わなくてもいいや、という意見は少なかった気がします。

新国立競技場の建設費とラグビーW杯

建設費の高騰というのも大きな話題になっています。というより新国立競技場が揉めているのは建設費が高くなってしまったからと言っていいと思います。当初は1300億円程度となっていたのに対し、結果的には2520億円というほぼ倍の額になってしまっています。
これに対しては、費用削減されるべきだと思います。ただ、この問題はあくまで建設費が高くなったのは、現状の設計が膨大な金額がかかることであったり、当初の見積もりの甘さであったり、ここまでの計画性のなさであったりというガバナンスの問題かと思います。
もちろん現状のままいくのはいいとは思えません。が、そのために批判がラグビーW杯に行くのはおかしいかなと思います。そもそもがラグビーW杯用に作られる施設が、ラグビーW杯に間に合わないから次に来る五輪までに間に合えばよいというのはおかしいかと思います。
ここまでの新国立の進め方や現状の設計ありきで進んでいくのは大いに問題かと思いますが、それはもっと早く見直すべきであったし、もしくは現状から設計変更して2019年に間に合う方法を探るべきです。

そのはずなのに批判がラグビーW杯にくるのは、ラグビーW杯の知名度、ラグビーW杯の価値を理解していない人が多いからではないでしょうか。もしラグビーが五輪と同じくらい価値のあるスポーツイベントだと理解していれば、ここまでラグビーW杯が悪く言われることはなかったかと思います。

逆に言えば、ここまでの知名度不足がラグビーW杯への悪評を生んでしまったともいえるかもしれません。

最後に

個人的には、別にラグビーW杯が国立で無理にやらなくてもいいと思います。そこまでお金がかかるなら、別に無理にラグビーW杯で使わなくてもいいよと思っています。

もう少しいえば、陸上競技場でやるなら専門の球技場でしてくれた方がうれしいです。(正直言えば横浜でやるのも収容人数から仕方ないですが、トラックも邪魔になるのでそこまで、という気はします。)事実、開催地が決まった際の質問で、最初に海外の記者の方から出た質問は、「今回の会場は陸上競技場での開催が多いが、どう思っているのか?」という趣旨のものでした。

ただ、ここ数日の流れを見ていると、ラグビーW杯がことさらに悪者にされている感じがします。そして、それを見ていると、ここまでの経緯を知らない人が多いのではないかという気がします。元々東京オリンピックで新国立競技場が使われるのに、そこにラグビーW杯が後から割り込んで、ラグビーW杯に間に合うようにしろと言っているというような、誤認している意見も多く見られます。(なお、たとえラグビーW杯がなくてもオリンピックは通常1年前にプレオリンピックを開催するので、ラグビーW杯があろうがなかろうが、1年前には施設を準備しないといけないのは変わりません。)

そしてラグビーW杯をマイナースポーツが行う小さなイベントだと思われている節もあります。本来は五輪と同等とは言わないですが、少なくとも五輪、サッカーW杯に次ぐ世界で3番目に大きなスポーツイベントだという理解をしている人は、少ないかと思います。

別に、「ラグビーW杯がありきで、絶対に新国立競技場はラグビーW杯に間に合わるべきだ!」なんて思っているわけではないですし、「今の建設費のままでいいから何が何でも作れ!」なんて思ってないですが、ラグビーワールドカップが過度に悪者扱いされているのは見ていて悲しいですし、明らかにこれまでの経緯やラグビーW杯の価値を理解していないものもあります。

それに対してはラグビー界ももう少し声を出して、そうではない、と主張してもよいと思います。

 

 

 

 

コメント